「GINZA SIX」や「虎ノ門ヒルズ」は市街地再開発事業によって生まれました。
高度利用が阻害されている地域が、都市計画事業によって再生されています。
再開発地域内の土地や建物(従前資産といいます)の権利者は、等価交換によって新しく建設される建物(従後資産といいます)の権利を取得することができます。
権利変換の種類は各事業により異なりますが、次の3種類に分類されます。
①原則型(都市再開発法74条~82条)
②地上権非設定型(都市再開発法111条)
③全員同意型(都市再開発法110条)
土地の権利を地上権にするのか、区分所有建物の敷地利用権にするのか、共有にするのか等、権利者の多寡や従後資産の性質に応じて決めますが、自由に権利変換を定めることができる全員同意型が最も多く適用されています。
権利者は、権利変換計画に応じて、従前資産の評価額と同等の従後資産の床を取得することができます。
ここで、権利者にとって重要になるのが以下の3点です。
①従前土地資産の評価
②従前建物資産の評価
③従後資産の評価
それぞれの評価は基本的に、不動産鑑定評価機関や補償コンサルタント会社等の第三者機関が行い、審査も行われるため、公平になるようなスキームになっています。
しかし、権利者自身も最低限の知識を習得し、組合や各分科会等の会議を通じて、積極的に意見や説明を求める姿勢を示すことがとても重要になります。
時には、事業主体、自治体、評価機関と意見を戦わせることもあります。
参加するだけ、後はおまかせ、シャンシャン総会の繰り返しではなく、積極的に参加する努力が必要になります。
〇従前土地の評価
都市再開発法80条(宅地等の価額の算定基準)
第七十三条第一項第三号、第八号、第十八号又は第十九号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。
近隣の取引事例から比準して査定することを定めていますが、評価について具体的に規定していません。
実務的には以下の2手法が適用されています。
①標準価格比較方式
同一価格帯(近隣地域)毎に、標準画地を設定し、標準画地の鑑定評価額を求め、標準画地との優劣から各画地の評価額を査定する方法。
②路線価方式(指数又は単価)
同一価格帯(路線)毎に、標準画地を設定し、標準画地の鑑定評価額を求め、各路線価を設定し、各画地の優劣から評価額を査定する方法。
どちらの手法を適用したとしても、各画地の評価額は標準画地の評価額に依存します。
ですので、この標準画地をどのように評価しているのかを検証する必要があります。
①の標準画地比較方式を例に、標準画地の評価について説明します。
〇標準画地とは
駅北口の一体が開発エリアだとします。
上の地図は単純化していますが、駅北側のメインストリートが幹線道路まで続いています。
メインストリート沿いの商業地域をA地域とします。
駅から離れた幹線道路沿いにある、住宅と商業が混在した地域をB地域とします。
AとB地域の背後にある住宅地域をC地域とします。
A、B、C地域はそれぞれ同一の用途に区分されており、土地の価格も同一水準になっています。
それぞれの地域ごとに標準的な画地を設定します。
A地域を例に説明します。
標準画地は、東側で道路に接道する一方路の画地で、敷地面積は500㎡が標準とします。
標準画地の評価は鑑定評価の手法に基づき算定されます。
適用される手法は以下の3手法が想定されます。
①収益還元法(賃貸型開発法)
標準画地に最有効使用の建物を想定し、賃貸借に供した場合に得られるであろう想定の賃料収入から賃貸事業に必要とされる維持管理費等の想定の総費用を控除して純収益を査定し、この純収益を利回り(還元利回り)で除して土地建物一体の収益価格を求め、この価格から建物投資額を控除して土地の価格を試算する手法です。具体的な計算式は下記になります。
収益価格=((総収益-総費用)÷利回り)×建物完成時から価格時点までの福利原価率-建物投資額の現価
上記の文章の中で「想定」という文言が頻出しています。
建物も賃料も費用も利回りも全てが評価する側の判断に依存しています。
②取引事例比較法
標準画地に類似した取引事例を収集し、取引事例と標準画地との比較を行うことで土地の価格を試算する手法です。具体的な計算式は下記になります。
比準価格=取引価格×事情補正率×時点修正率×個別格差率×地域格差率
※事情修正率:売り急ぎや買い進みなどが認められる場合の修正率
※時点修正率:取引時点の価格を価格時点の価格に修正するための修正率
※個別格差率:角地や不整形などの個別的な要因を修正するための修正率
※地域格差率:繁華性や駅距離など地域的な格差を修正するための修正率
それぞれの格差率は評価主体の判断によります。
また、採用する取引事例も評価主体が選別します。
③公示価格の規準とした価格
標準画地と類似する近隣の地価公示地もしくは地価調査地を選択し、公示地等と標準画地との比較を行うことで土地の価格を試算する手法です。具体的な計算式は下記になります。
規準価格=公示価格×時点修正率×個別格差率×地域格差率
鑑定評価額は公示価格を規準とするため適用されます。
但し、公示価格等の公的評価は、実勢価格と乖離する場合もありますので、公示価格を規準とした価格と収益価格や比準価格が乖離する場合もあります。
上記の各試算価格を考慮して、標準画地の価格が算出されます。
A地域内の土地は、標準画地を基準として、画地条件等の個別的要因の優劣を比較して求めます。
各画地の評価は標準画地の評価次第といえます。
権利者側には、個票のなかで、鑑定評価の結果として、標準画地の㎡単価しか開示されないかもしれません。
地域住民でもある権利者側は、事業主体や評価主体よりも、地域の実情や相場観に詳しいともいえます。
㎡単価算出の背後を把握しておくことで、事業主体側に対して的確な質問を行い、必要に応じて説明や資料の開示を求めることもできます。