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セルフ葬儀のススメ

はじめに

 

国連の専門機関が発表した、「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書によると、2023年世界では11人に1人、約7億3300万人が飢餓に直面しています。

 

飢餓とは、食料が不足して、栄養不足となり、飢えている状態を指します。健康的な食事のコストは世界平均で1日に3.54ドルです。(1ドル145円で換算すると513円)。

 

日本人は2023年に約157万人死亡しました。株式会社鎌倉新書が発表した「お葬式に関する全国調査(2024年)」によれば、葬儀費用の総額は118.5万円という平均値でした。仮に葬儀などにかかる死亡コストが約100万円程度であれば、死亡に伴うビジネス規模は約1兆6千億円になります。

 

1兆6千億円を513円で割ると約31億1900万日分の健康的な食事を提供できます。これは日本国内だけの数値です。

 

わかりやすくするために葬祭ビジネスの市場規模と比較しましたが、お金は生きているもののために使うというシンプルな考え方を選択できるのであれば、本書は参考になるかもしれません。

 

 

1.慣習

 

私は早くに両親が他界したため、葬儀の喪主を2回経験しています。高校生の時に父親が他界し、当時両親は離婚していたので喪主は私になっていましたが、実質的には叔父が全ての手配をしてくれました。

 

母親の時は20代で、既に社会人でしたので葬儀全般の手配をしました。母がガンに侵されて進行が進むと、母が以前勤務していたことのある葬儀会社の上司が頻繁に自宅を訪れるようになり、特に考えることもなく、母の葬儀もその葬儀会社にお世話になることになりました。

 

葬儀会社の都合で、自宅から離れたセレモニーホールを手配され、葬儀会社に紹介された縁のない住職に読経と戒名をお願いしました。母は北海道の根室市出身でしたので、都内に住んでいた私には根室市に菩提寺があったとしてもそこに依頼することは現実的ではなかったためです。葬儀費用は総額で250万円程度でした。今から25年前の話です。

 

頼れる親族もいない状況で、死亡後の手配もよく分からず、誰かに頼らなければ不安で仕方がないという状況でした。当時はスマートフォンもまだ普及していない時代でしたので、分からないことがあれば検索して簡単に調べるという環境もありませんでした。

 

母は生前飲み屋を経営していました。お客に石屋の経営者がいました。亡くなってからしばらくして、その石屋の社長が自宅を訪れました。最初は母の焼香が目的なのかなと思っていましたが、今思えば墓を斡旋するために来たのだと分かります。

 

父親の遺骨も本家の墓に間借りしているような状況でもあり、自分で墓を作らないとという焦りみたいなものもあって、石屋の社長を頼ることにして、石屋と繋がりのあるお寺を紹介して頂き、永大供養料を収め、墓を購入しました。総額で200万円程度でした。会社の組合員だったので、労働金庫から低利で融資を受けなんとか工面しました。

 

今思えば、当時母の死亡後に関わった大人の大半が葬祭ビジネス関連であり、理由もよくわからないけど、やらないと故人に悪いという感覚に付け込まれる形で葬儀から墓の購入まで進めてしまったように思います。

 

これらの一連のことが、なんの根拠も故人の意思もない、慣習でしかないのだと思います。冷静に考えれば、戒名も墓も必要ないというのが今の自分の答えです。



2.世間体

 

故人の生前の経歴、収入、財産などに応じて、葬儀の規模も戒名の長さも変わるというのが一般的なようです。普通はとか、他はとか、日本人特有の空気みたいなものの影響も強いのかもしれませんが、なんとなく葬儀をやり、なんとなく戒名をつけ、なんとなく墓を購入しているというのが実態のように思います。すくなくとも自分はそうでした。

 

3.死んだらどうなるか

 

死んだ後のことは誰にも分からないというのが今の科学の現実ではないでしょうか。臨死体験の報告はありますが、明確なエビデンスといえる研究報告もありません。脳とは異なる意識や魂みたいなものがあるのかもしれないという憶測でしかありません。今のところ最も正解に近い仮説は、死んだら終わりということです。証明できない魂はないという仮説です。また、仮に魂というものがあったとして、その魂が、葬式の規模が小さい、戒名が短い、仏壇が小さいとか生身の人間のように承認欲求や虚栄心に心が支配されているのか、その仮説の方がよっぽと弱いというか考えづらいのです。死んだら終わり、死んだら別の次元、死んだ者より生きている者の日常生活の方が重要なんです。

 

 

4.恐れ

 

私も当時、死者への恐れから、死亡後の一連の工程をやらなければという考えにとらわれていたように思います。今思えば、葬儀をしなくても、読経がなくても、戒名がなくても、墓がなくても、親は私のことを恨んだりはしないということがよくわかるのです。それは私も人の親になったからです。子供に余計な負担をかけたくないというのが正直な気持ちです。



5.葬儀なんていらない

 

故人が生前に望んだのならば、故人の稼いだお金で何をやるのも本人の自由です。しかし、ほとんどの人は、日々の生活を乗り切るので精一杯で、必死に生きているのだと思います。特に日本人は自分のマイナスの部分を隠す傾向が強いように思います。生活保護という制度をあえて利用しない人がいたり、介護疲れで自殺をはかったり、なかなか助けを求めることが難しいのが日本人なのではないでしょうか。

 

自分の死後、子供たちに負担を残したくない、何百万もかけて私を送らなくていい、そのお金で住宅ローンの繰り上げ返済や教育費にまわして欲しいというのが、苦労して生きてきた親の正直な気持ちです。

 

6.戒名なんていらない

 

NHKが2018年10月から11月にかけて行った「宗教」に関する世論調査(全国の18歳以上対象)によると、日本人の約6割は信仰宗教がないというアンケート結果があります。これは、日常生活をしている感覚とほぼ一致する数値で、大半は無宗教というのが日本人です。

 

それが、死んだら何故か仏門に入る、それが戒名の仕組みです。故人にそのような意思があったのでしょうか。戒名というものを認識していたかもしれませんが、仏門に入るという認識はない方が大半ではないでしょうか。



7.自分で決める

 

最近では家族葬や直葬などの近しい者たちだけで行う小さな葬儀を選択するケースが増えました。残された遺族の負担を軽減したいという故人の意志が反映されているのかもしれません。規模の大きい葬儀が行われるケースは故人がまだ社会人として現役であったり、経営者などで社葬形式で行われたり、故人の意志で葬儀の形式を選択するような場合です。どちらかというと残された者たちの都合なのかもしれません。自分の意志を反映したい場合は、遺書やエンディングノートなどを準備しておくことです。



8.セルフ葬儀のながれ

 

以上を踏まえ、残された家族や知人が手配するセルフ葬儀のながれを記載します。残された親族や友人で送る葬儀です。

 

一連のながれは非常にシンプルです。

 

御臨終(病院・自宅)→遺体安置(死亡後24時間以上)→役所に死亡届を提出し火葬(埋葬)許可証を受取→火葬→粉骨→散骨

 

①御臨終

医師による死亡確認、死亡診断書の受取

 

②遺体安置(死亡後24時間以上)

火葬を行うまでの間、火葬場などの霊安室で遺体を安置する。

お近くの公営斎場を利用しましょう。一日あたり数千円~数万円程度で利用できます。

病院または自宅からの搬送は遺体搬送サービスを利用する。

執筆時点(2024/8️)の価格相場は10kmあたり2万円程度です。

 

③死亡届の提出

本籍地か住所のある市区町村役場に死亡届を提出し火葬(埋葬)許可証を受取。

 

④火葬

火葬場を予約し※、死亡時から24時間経過後に火葬。お近くの公営斎場を利用しましょう。

※霊安室の予約と同時

住民であれば無料で利用できる自治体もあります。住民以外の場合は数万円程度で利用できます。

 

⑤粉骨

散骨するためには遺棄にならないように、2mm以下に粉骨する必要があります。自分で粉骨することも可能ですが、粉骨サービスを利用するのが気が楽だと思われます。執筆時点(2024/8️)の価格相場は1〜2万円程度です。

 

⑥散骨

最後に散骨です。自宅が庭のある戸建住宅であれば、庭の花壇などに撒いて終わりです。マンションや賃貸物件であれば、パウダー状になっていて収納ケースもさほど嵩張らないので、とりあえずそのまま手元に置いておくのもよいかもしれません。

 

他に散骨の種類として山や海、空中散骨などのサービスを利用します。自宅以外の場合は散骨できるエリアが自治体の条例等により制限されますので、専門業者に依頼するのが確実です。個別に依頼するとやや費用がかかりますが、散骨を委託すれば数万円で依頼できます。



最後に

直葬のセルフ葬儀の場合、僧侶の読経はありませんが、直葬を司るご親族で火葬前の炉前で読経をするのも故人の冥福を祈る意味でもよいかもしれません。最も有名で短い(260文字)般若心経が、普段お経を読んでいない方でも音読しやすいでしょう。

 

般若心経(ふりがな付き)

 

ぶっせつまーかーはんにゃーはーらーみーたーしーんぎょう

仏説摩訶般若波羅蜜多心経

かんじーざいぼーさーぎょうじんはんにゃーはーらーみーたー

観自在菩薩行深般若波羅蜜多

じーしょうけんごーうんかいくーどーいっさいくーやく

時照見五蘊皆空度一切苦厄

しゃーりーしーしきふーいーくうくうふーいーしきしきそくぜー

舎利子色不異空空不異色色即是

くうくうそくぜーしきじゅーそうぎょうしきやくぶーにょーぜー

空空即是色受想行識亦復如是

しゃーりーしーぜーしょうほうくうそうふーしょうふーめつふーくーふーじょう

舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄

ふーぞうふーげんぜーこーくうちゅうむーしきむーじゅーそうぎょうしきむーげんにー

不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳

びーぜっしんいーむーしきしょうこうみーそくほうむーげんかいないしー

鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至

むーいーしきかいむーむーみょうやくむーむーみょうじんないしーむーろうしーやく

無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦

むーろうしーじんむーくーしゅうめつどうむーちーやくむーとくいー

無老死尽無苦集滅道無智亦無得以

むーしょーとっこーぼーだいさったーえーはんにゃーはーらーみーたー

無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多

こーしんむーけーげーむーけーげーこーむーうーくーふーおんりーいっさいてんどう

故心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顛倒

むーそうくーぎょうねーはんさんぜーしょーぶつえーはんにゃーはーらーみーたー

夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多

こーとくあーのくたーらーさんみゃくさんぼーだいこーちーはんにゃーはーらーみーたー

故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多

ぜーだいじんしゅぜーだいみょうしゅぜーむーじょうーしゅぜーむーとうとうしゅ

是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪

のうじょーいっさいくーしんじつふーこーこーせつはんにゃーはーらーみーたー

能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多

しゅーそくせつしゅーわつぎゃーてーぎゃーてーはーらーぎゃーてーはらそうぎゃーてー

呪即説呪曰羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦

ぼーじーそわかーはんにゃーしーんぎょう

 

菩提薩婆訶般若心経