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賢者の住み替え

はじめに

皆さんは今どのような家にお住まいでしょうか。賃貸のワンルーム、ファミリータイプの分譲マンション、郊外の戸建住宅、避暑地の別荘、シェアハウス、車中泊、ネットカフェ‥

 

では、何故その住まいを選択してるのでしょうか。1人だから、子供部屋が必要だから、駅に近いから、親の実家が近いから、事故物件で安いから‥

 

何らかの事情があって、その時々において最適な住まいを選択しているというのが実情でしょう

 

さて、その家を手に入れる方法は、今の社会においてはほぼ二択と言ってよいでしょう。

 

買うか借りるか

 

私は三択になる可能性をこの本で検討してみたいと思います。

 

第3の選択、

 

それは交換です。

 

他の財より、不動産は交換に適しています。その理由を展開してみようと思います。

 

本書では、交換可能な不動産として、抵当権や賃借権等の所有権以外の、不動産の処分を制限する権利の付着していない不動産を前提に検証しています。

 

不動産を交換することで、無駄な流通コストを払わない賢者の住み替えを実現しましょう!

 

不動産を手に入れる方法

貨幣経済が定着する前は物々交換経済でした。物々交換をするためには、こちらが欲しい物と相手が欲しい物が一致する必要、価値が等価になる必要、取引相手の探索など、取引が非効率になるため、普遍的な価値を持つ貨幣が導入されました。

 

不動産の取引で例えるなら、子供も独立して、部屋数の多い戸建を持て余した老夫婦がいたとします。自動車免許も返上し、交通の利便性が高い駅前の40㎡程度のマンションに住み替えをしたいと考えました。

 

そこで、コマーシャルでよくみかける、駅前に店舗のある不動産会社に相談します。

 

不動産会社の担当者は売却依頼のあった不動産を業界のネットワークや自社のホームページ、ポータルサイトに載せて購入希望者を探します。

 

購入者が見つかり、契約して権利を移転します。不動産会社に売主は媒介の手数料(成約価格の3%)を支払います。

 

その他にも、登記、税金、引っ越し代など売買価格の5-10%程度の費用が発生します。

 

次に、売却価格から諸費用を控除した残金を元手にマンションを探します。

 

丁度残金で購入できそうな売り出し中の中古マンションを見つけました。

 

今度は売った時とは逆に、仲介会社に手数料(成約価格の3%)を支払い、登記や税金などの諸費用を同じように支払うため、場合によっては、住み替えにより持ち出し分が発生するかもしれません。

 

不動産から貨幣に変換し、貨幣から不動産に変換するために、諸費用分の価値が目減りしてしまうのが、不動産における住み替えの現実です。   

仮にこの老夫婦が物々交換により、駅前のマンションを購入できたらどうでしょうか。

 

ここで、物々交換のデメリットを整理しましょう。

 

  1.二重の一致の困難性

老夫婦のケースでいえば、郊外の戸建を購入したいと考えている駅前に40㎡程度のマンションを所有する世帯の存在を探索する必要があります。

 

2. 評価の困難性

老夫婦が所有する不動産の適正な時価を把握する必要があります。駅前のマンションも同様です。

 

上記の困難性は現代の社会であれば克服できています。

 

3.二重の一致の困難性の克服

SNSやインターネットが普及していない時代には個人が個人の力で、情報を広く拡散することは難しいというかほぼ不可能でした。現代は状況が変わりました。情報を集めるのも、拡散するのも、無料になり、個人が大手の法人と同じように広告ができるインフラがあります。

 

交換相手を探すのに、無料の掲示板サイトやSNSがあります。掲示板サイトのジモティーは月間PV数が約9億あります(2024年7月調べ)。この掲示板に物件を掲載すれば、無料でこれらのユーザーにアプローチできるのです。アカウントを作ればX (ツイッター)、フェースブック、ユーチューブなどから世界中に拡散することも可能です。

 

4.評価の困難性の克服

不動産は他の財と異なり、大量生産ができないため、同じものは一つとしてありません。同じマンションであっても、部屋が異なれば、眺望も維持管理の状況も変わってきます。よって評価は不動産会社の査定や不動産鑑定士による鑑定評価が必要になります。

しかし、既に皆さんが所有している不動産は評価済なのです。不動産を所有されている方はご存じですが、毎年所有不動産に対して固定資産税を市区町村に収めています。税額の根拠が固定資産税評価額であり、この価格に税率を乗じて税金が算定されます。この評価額は課税主体である市区町村長が決定していますが、総務大臣が定める評価基準に基づき、不動産鑑定士の意見なども反映して、役所の専門部署で算定されます。

 

固定資産の評価額は時価の70%程度であり、評価基準は基本的に全国共通です。

固定資産評価額を70%で割り戻すことでおおよその時価を把握できます。

 

そして固定資産税評価額を基準とすることが最も適している理由として、交換する双方の不動産を同じ物差しで評価しているという点です。固定資産税評価はマーケットの水準を的確に表していると言えないことは私も認識しています。ですが評価の基準が全国的に統一されているため、同じモノサシで測っているという部分が重要になります。

 

それでも心配という方は、鑑定士に意見を求めることをおすすめします。鑑定評価書の依頼ではなく、あくまでも意見価格を求めるのです。これであれば、普通の戸建てマンションであれば数万円で対応してくれるでしょう。

 

不動産を交換することのメリット

1.譲渡所得税が課税されない

土地や建物などの固定資産を同じ種類の固定資産と交換した場合、所得税が課税されません。

但し、以下に記載する特例適用の要件をすべて満たす必要があります。

・交換する資産と取得する資産が、いずれも固定資産であること

・交換する資産と取得する資産が、いずれも同種類の資産であること(例:土地と土地、建物と建物)

・交換する資産と取得する資産の価額が、概ね等価(差額が高い方の20%以内)であること

・交換する資産と取得する資産を、交換直前と同様の目的に使用すること

・交換により金銭の授受がないこと

・特例の適用を受けるためには、事前に税務署へ申請する必る要がある

※詳細は国税庁HPを参照

 

2.試し住みができる

皆さんは、自動車や高級腕時計などの高価な商品を購入する際に、試乗運転や試着をしないで購入するでしょうか?よっぽどの金持ちでない限りお試ししたうえで最終判断をするはずです。

 

しかし、不動産の世界にはこのお試しがないのが一般的です。

新築物件であれば、短期間であろうと誰かが居住した時点で中古になってしまいます。居住中の中古物件はまだ売主が住んでいるためできません。空家なら交渉しだいですが、売主としても媒介する仲介会社にしても手間暇がかかるため難しいでしょう。そもそもそのような慣行がありませんし、不動産売買の世界では一般的に売主の意見が反映されやすいですから、可能性は低くなります。

 

交換ならある意味お互いが同等の立場ですし、個人間の交換で間に仲介会社を入れないとした場合、実際居住して、建物の状態や近隣の住民、音、臭いなどの環境を直接確認することで、リスクヘッジにもなります。試し住みをすることが、交換の前提条件ともいえます。

 

3.売買契約同様に瑕疵不適合責任を問える

お互い試し住みをしたうえで、それぞれの住居の特徴や欠陥、近隣環境は概ね把握できると思いますが、シロアリ被害や建ぺい率、容積率超過などの法令違反は専門的な知識も必要になるため、当事者自身が認識していない可能性もあります。これらの契約当時に認識できなかった瑕疵について、交換後に発見されるケースも想定されます。

 

交換契約も普通の売買契約と同様に瑕疵不適合責任を伴いますので、瑕疵を知ったときから1年以内に相手方に通知し、損害賠償請求や契約解除を請求できます。このような事態になった際は、専門家である弁護士等に相談することをお勧めします。

 

隠れたる瑕疵の存在が不安であれば、交換当初の一定期間は賃貸借契約にするのもよいかもしれません。賃貸してから、物件の状態を熟知した上で、所有権の移転をするのです。この間に相手方の事情でやはり交換したくないとなった場合でも、借地借家法が適用される普通賃貸借契約を締結しておけば、よほどの正当事由がない限り、更新の拒絶はできないからです。

 

4.個人間の交換であれば、仲介手数料発生しない

自力で交換の相手先を探して、試し住みもしたうえでの契約ですから、不動産業者は関与していません。現金化する際に必要であった仲介手数料の3%を支払う必要がないのです。但し、契約書の作成は所有権移転登記を依頼する司法書士にお願いした方が取引の安全は確保できるでしょう。交換の相手方が本当に所有者なのかというリスクも間に登記の専門家である司法書士を介することでヘッジできます。

インターネットで「個人間売買、登記」などと入力して検索すると、個人間売買に精通した司法書士のサイトを閲覧できます。登記費用や契約書作成の費用なども確認することができます。

 

なぜ普及しないのか

私は、不動産業界に20年以上いますが、以前から不動産の流通コストの高さなどから、抵当権や賃借権等の権利がないことが前提にはなりますが、不動産こそ物々交換のメリットが高い資産ではないかと考えていました。本来であれば、人は単身、結婚、子育て、老後、転職等のライフステージに応じて住まい方を変えていくのが理想的です。

しかし、賃貸の時は臨機応変に住まい方を変えていたのが、購入した途端に「終の棲家」なる言葉を持ち出して、住まいをFIXする傾向があります。この理由として考えられるのが、流通コストの高さと、お試しができないことりで、家の購入自体がギャンブル的な要素を含んでしまうためだと思われます。交換という効率的な手段で、理想的な住み替えが実現できるはずです。

 

また、交換する際に、家具や家電などもセットにしてしまえば、引っ越し費用も節約できます。今の住居にある家具や家電は、サイズやデザインが今の住まいに適しているからです。食器や寝具、衣類くらいなら自家用車やレンタカーで簡単に移動できます。

 

交換するのは家だけじゃない

不動産の権利だけではなく、期間や家の一部を交換するという手段もあります。

例えば子供が大学や専門学校に進学するため、部屋を借りる必要があるとします。子供Aは東京から大阪に、子供Bは東京から大阪に進学する場合、それぞれの部屋が空きますので、その部屋を交換するのです。子供が入れ替わるだけですので、一々アパートを借りる必要もありませんし、それぞれの家庭で食事をとれば食費もかかりません。子供が変わるだけです。子供は不服かもしれませんが、双方の保護者は知らない土地に一人で子供がクラスよりは安心ですし、何より節約ができます。

 

 

ビジネスにしない

アプリで簡単に交換できればいいとも思いますが、それでは既存の不動産業のスピンオフみたいなものになります。フリマアプリで売却するにも10%程度の手数料が発生します。既存のインフラを利用することで、限りなく無料にするというのが、不動産の交換マーケットが定着するための重要な要件になります。手数料がかかるくらいなら従来の成熟したやり方で十分だからです。

 

既存の無料ツールを活用して、個人間を結びつけ、既存のエスクロー専門家である司法書士、不動産鑑定士、弁護士などに不動産取引のクロージングを必要に応じて依頼するのです。

 

試し住み、賃貸借契約、交換契約の瑕疵条項等で取引の安全をヘッジし、安く、安全に交換をするのです。物々交換は新しいビジネスモデルではなく、古来からある取引の手段です。その効率性に気付くことができれば、交換市場も可能性ゼロではないとみています。

 

最後に

 

不動産の交換は決して難しいものではなく、貨幣経済以前の従来の仕組みに回帰するものです。物々交換のデメリットであった、二重の一致の困難性や評価の困難性は前記のとおり克服されています。あとは選択するだけです。住み替える度に資産が目減りするようでは、理想的な住み替えは一部の富裕層だけの特権になってしまいます。一生で最も高価な買い物である不動産が、お試しもせずに購入しているなんて、不思議な話です。効率、安全、手軽な住み替えは、きっと促進されるはずです。